夕暮れ
地面に映る長くなった影。
遠くの方から聞こえる鴉の声。
空を見上げれば一面の茜色。
ひと気がすっかり少なくなった道を歩きながら、ルヴァは苦笑に似た表情を浮かべる。
(…望郷の念に囚われてしまうんですよね。この時間って)
胸を締め付けるような切ない気持ちを消すことが出来ず、そっと嘆息を漏らした。
「綺麗で好きなんですけどねぇ」
声に出して呟いて、遠くの方に視線を向ける。
すると、夕日に照らされて煌くものが目の端に映った。
それは宇宙の女王である彼女の姿。
金色の髪が眩いくらいに輝いているのは、落ちていく日に当たっているからだろう。
一瞬見惚れてしまってから、ルヴァは追いつけるように歩く速度を上げた。
「陛下」
声の届く範囲までやっと近づけたルヴァは、乱れた呼吸を整えてから彼女を呼んだ。
「…ルヴァ」
振り向いた彼女は少しぼんやりと彼を見つめる。
「どうしたんですか?こんな所にお独りでいらっしゃるなんて」
「ああ、えっと。その、急に外を歩きたくなってね」
彼女にしては珍しく歯切れが悪い。
不審げにルヴァはじっと見つめてから、肩をすくめた。
「…目が、赤いですよ」
「え!?あ、あの、結膜炎かしら」
「そうですかー」
あえて追及せずに、彼女の手をそっと取る。
「私には何も出来ないかも知れませんが…、たまには頼って下さいね?」
「……」
「おやおや。結膜炎が悪化しますよー」
ほろほろと涙を零れさせる彼女の頭をふわりと撫でて。
そして、壊れ物を扱うみたいに優しく抱きしめた。
手を繋いだまま、二人で歩く夕暮れの道。
切なさを残したまま、辺りは濃い藍色へと変わっていく。
一番星を見つけた彼女が嬉しそうに微笑んだから、ルヴァも笑う。
「少し私の館に寄って行きませんか?陛下が好きそうなお茶があるんですよ」
「ホント?…じゃあ、お邪魔しちゃおうかな」
「ええ是非」
にっこりと微笑んだルヴァを彼女が不思議そうな顔で見つめた。
「何か?」
「んー、何でルヴァはこんなに親切にしてくれるのかなぁって思ってね」
女王だからとかそういうのじゃないみたいだし、と彼女は眉間にしわを寄せる。
「わからない、ですか?」
「うん。さっぱり」
明るく肯定されてしまい、ルヴァはがっくりと肩を落とした。
「…そ、そうですか。いえ、そんな気はしてたんですけどねぇ。あははは~」
虚ろに笑ってから、こっそり呟く。
あなたが好きだからですよ、と。
「何か言った?」
「いいえー。何にも」
首を傾げる彼女に笑ってみせる。
そして、繋いだ手を振った。
彼女の横顔とその向こうに広がる藍色を見つめながら。
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