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花ざんげ

色褪せた手紙。
それを握りしめ、私は走る。

***
前に二人でみた向日葵畑を思い出して、先日、裏庭に向日葵の種を植えました。
太陽に向かって伸びていく姿はとても綺麗です。
いつか。この裏庭いっぱいに向日葵が咲く事を願いながら、私は今日も水を撒きます。
そう遠くない未来にそれは叶いそうです。ここにも小さな向日葵畑が出来るでしょう。
その光景をあなたと共に見られたら…と、つい思ってしまい、慌てて自分を叱りました。
相変わらず、私は駄目な男です。
本当は、こんな手紙を出すべきではないのでしょう。
でも。どうしても、その向日葵畑の事を伝えたかったのです。
いつか、全てから解放されて、自由を得た時にでも見てやって欲しいんです。
この手紙が届く頃には、一体どれぐらいの時間が過ぎているのでしょうね。
きっともう…。いえ、それは考えないでおきましょうか。

そろそろ筆を置くことにします。
最後に一つだけ、懺悔のようなものをして良いでしょうか。
上手く伝わってなかったと思うのですが
私はあなたがとても好きでした。
***

整った優しい字はあの人のもの。
名前を見なくても、すぐに解った。
彼のサクリアが尽きて、聖地を去る事になった時、どうして私は素直になれなかったのだろう。
──いかないで。
たった一言が言えなかった。
その愚かさが今も、重く重くのし掛かってきている。
この気持ちを後悔と呼ぶのなら、今まで「後悔」していると思ってきたものはあまりにも軽すぎるような気がした。

古いけれど、しっかりした造りの一軒の家。
その前に辿り着いて。一呼吸して、門を開けた。
蔦のはう壁。小さな井戸。そして、太い木の枝からぶら下がっているブランコ。
それらが、次々と目に映る。
彼らしい空間。懐かしさと切なさが一気に押し寄せてきた。

建物の角を曲がると、そこは一面の向日葵。
どの花も太陽を一途に見上げていた。
潔くて綺麗で、胸がつまる。
「ルヴァさま…」
私が名前を呟いた瞬間。
麦わら帽子を被り、こちらを振り返って微笑む彼の姿が見えた。
「私、私もルヴァ様が…!」
手を伸ばした途端、その幻は消えてしまった。
すっと空気に溶けたように。
「好き、でした」
空を掴んだ手を見つめる。
いつの間にか、涙がこぼれ落ちていた。

──よく来てくれましたねぇ、アンジェリーク。
そんな声が何処からか聞こえた気がした。