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夢をみた

遠くの空は目に染みるような青。白く薄く延びる雲がそれを覆いながら、風に流されて何処かへと向かう。
小南は瞼の上を手のひらで翳しながら、それを見上げた。
日の光が制服越しに温かさを伝えてくる。その心地良さに、何となく思い切り伸びをしたくなって、小南は腕を宙へと伸ばした。口元には自然と笑みが浮かぶ。

このはばたき学園には色々な場所があった。
校舎の他に小さなバラ園、古い教会などがそれで、こうして空いた時間に少し探索するのが目下小南のお気に入りだった。
気の向くままに校舎裏までやってきて、そこで彼女は足を止める。
日の当たる青々とした芝生の上で見覚えのある生徒が寝転がっているのを見つけたからだ。
「葉月くん…?」
足音を忍ばせて近付くと、やはりそれは同じクラスの葉月珪で、ぐっすりと眠っているのを知る。
モデルをしていると入学式の時に聞いたが、それを今更ながらに成る程と思う。じっくり見れば見るほど整った面立ちをしていたからだ。
長い睫は光に当たって金の色。
「綺麗だなぁ」
思わず呟くと、葉月は身じろぎをした。いけない、と思って慌てて口を押さえて。小南は息を飲んだ。
横を向いた拍子に彼の頬に涙が滑り落ちたのだ──。
見てはいけないものを見てしまったような気持ちになって、ひどくドキドキした。
(ここは見なかった事にするべき、だよね)
小南はうんと一つ頷くと、息をひそめたまま数歩後退る。
否、後退りかけて、盛大にひっくり返った。どうやら窪みか何かに足を取られたらしい。
ベタ過ぎる展開に泣きたくなりな がら、恐る恐る葉月に視線を向けた。
「何やってるんだ、おまえ……」
案の定、葉月を起こしてしまって、更に泣きたい気持ちになる。
「ええと、その。散歩してたんだけどね」
言って、打った腰をさすりながら立ち上がった。そして、どうしようか一瞬迷って、でも、ハンカチを差し出す。
「……ん?」
「お節介かな、と思うけど。教室戻る前に拭いた方がいいかと思って」
頬を指さすと、葉月は指されるままに自分でそこを触れた。そして、目を見開く。
「──夢みて泣くなんて……格好悪いな、俺」
サンキュ、と苦笑しながらハンカチを受け取って葉月は眦辺りを押さえた。
「別に格好悪くなんてないと思うよ?私だって、よくそういう事あるもん」
きょとんとした葉月に笑いかけて続ける。
「入学式の朝もね、目が覚めたら泣いてたの。小さい頃、誰かと大切な約束をしたような、そんな夢だったんだけど、ハッキリと思い出せないんだ」
その言葉に、何故か葉月は表情を曇らせた。
「そう、か……」
「どうかした?」
「いや、べつに……。洗って返すな、これ」
使ったハンカチをポケットにしまう彼に、小南は慌てる。
「ええ!?いいよ、ちょっと使っただけじゃん。そんな気を遣わなくても」
「いいから。……ほら、予鈴なってるから、いくぞ」
取り合わずに、葉月は立ち上がった。
「次、数学たったな。今日、当たるんだろ、おまえ」
「そ、そういえば、先週、氷室先生に言われてたっけ?!やっば、予習してないや」
「俺、教えてやろうか」
「いいの?!わーい、やたー!」
ぴょこぴょこと飛び跳ねると、葉月が少しだけ微笑む。
「……ヘンな奴」
つられたように小南も少し笑って、そして言い返した。

「それは、お互いさま、でしょ?」